客員研究員・山口信博さん+編集スタッフ・田中宏和対談


2019年4月1日


田中宏和 記


 2018毎日デザイン賞受賞を記念する「山口信博+折形デザイン研究所の一八年」展会場にお邪魔し、友の会客員研究員でもあるデザイナー・山口信博さんにお話を伺いました。
ブックデザインと「折形」の研究で知られる山口さんですが、活動の奥に横たわる人類的な深層意識、土地の時間的深層をめぐる企画、イタリア由来の教育法「モンテッソーリ」に着想を得た玩具デザインまで、話題は尽きるところを知らず……。同様に、山口さんご自身の世界も果てのないことを再認識できたひとときでした。

CAP:右・山口信博さん、左・田中宏和


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田中:2018年の毎日デザイン賞、おめでとうございます。ご受賞記念のこの個展ご開催もおめでとうございます。いきなりなんですが、ギフトに様式美を持ち込むというのは、日本ならではなんでしょうか?


山口:そう言えると思います。贈答を通じて、人と人がつながっていく。それは日本だけでなく、ぼくが国際交流基金の事業で訪れたエチオピアやバルト3国もそうでしたし、人類の普遍なんですね。その贈答に日本ならではの様式美と行動美学が表現されているのだと思います。


田中:それが日本の折形であるということですね。


山口:以前、人類学者の石倉敏明さんたちとハウハウの会というのをやっていました。


田中:ひょっとして、その「ハウ」は、マルセル・モースの『贈与論』に出てくるニューギニアのトロブリアンド諸島で円環状の贈与とともに動く霊のことですか?


山口:そうです! よくご存知ですね。


田中:ニューギニアの場合には行動様式はあっても、それを様式美として表現はしていないのでしょうね。


山口:2009年に出版した『折形デザイン研究所の新・包結図説』という本の巻頭で、石倉さんに「『包み』と贈与」という論文を寄稿していただきました。その中で日本の鯨漁について触れ、海からの贈与をみんなで分配し、返礼する儀式について述べられているんです。


田中:まさに熨斗の熨斗鮑は海産物ですね。


山口:鮑は女性性のシンボルでもあります。つまり、何かを産み出すということです。人間の誕生でもほとんどは女性が担っているわけで、男性ができることはちょっとしたお手伝いくらいです。石倉さんは贈与から「包み」に話を続け、「包み」とは子宮の象徴だという風に結論づけられました。さらには胞衣(えな)にまで論を発展させていらっしゃいます。


田中:もはや縄文的な日本の意識の古層というよりも、人類的な意識の古層の話にまでつながりますね。


山口:この折形デザイン研究所のある南青山は古代の地形から見て面白い土地なんです。縄文時代はすぐそこまで海でした。その上に青山墓地や明治神宮の森という人工物がある訳です。くらしのこよみ友の会では、縄文時代の地図を片手にこの周辺を歩くようなイベントもしてみたいですね。ここの場所性にこだわる企画です。

 


CAP:折形デザイン研究所の前を通る坂道。急な勾配に、かつてここに川が流れていたという地形の古層がしのばれる。


田中:ゲニウス・ロキ(ローマ神話における守護精霊、地霊)、つまり「地霊」に「こよみ」という時間軸が入ると、また新しい発見ができそうですね。


山口:実際このあたりはバートウォッチングのグループや建築ツアーの人たちがよく歩いていますよ。


田中:くらしのこよみ友の会で「南青山散歩部」ができますね。


山口:ぼくが最近、夢中になっているものがありましてね。モンテッソーリ教育で使われている知育玩具なんです。


田中:実はわたし、幼稚園がモンテッソーリ教育だったんです。京都の家から一番近い幼稚園が信愛幼稚園というイエズス会系の幼稚園でして。


山口:田中さん、モンテッソーリぽいですね。


田中:友の会で山口さんと同じく客員研究員をお願いする、イギリス人のトム・ヴィンセントさんにも前に「宏和さん、モンテッソーリぽいな〜」と笑われたことがあります。幼稚園の時は合唱が嫌いで1人だけ歌わず、砂場で遊んでいたり、よくビーカーや試験管に色水を混ぜる遊びばかりしていたのを覚えています。

 


山口:このひらがなの玩具もね、あらためて自分の詠んだ俳句をひらがなで並べてみると発見があるんです。何行の音が多いとか、母音や濁音の傾向とか、意外な驚きがあります。自分の中の抑圧を発見することなのかもしれません。


田中:モンテッソーリ教育には抑圧を感じませんでした(笑)


 


山口:ぼくは抑圧を受けてきたんだと思っています。犯罪者にならなくて済んだのは、デザインの仕事をしてきたからだとも思っています。子どもが楽しく熱中して自然とすることは実は秩序立っていたりするものです。ぼくのデザインの取り組みもそれに近いかもしれない。だからボツ案が多いんです。


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 このあと、バウハウスを追われた美術家ヨゼフ・アルバースが移ったブラックマウンテンカレッジでは落ち葉を使って色彩学を教えていた話、山口さんがデザイナー・倉俣史郎さんの本のデザインを手がけたとき、ご本人の近影を受け取って校了したタイミングで倉俣さんのご逝去を知られたこと、その倉俣さんもモンテッソーリ教育に興味を持っていたことなど、お話は尽きませんでした。