2019年4月1日


神谷真生 記


 「くらしのこよみ友の会」客員研究員のデザイナー・山口信博さんと、山口さんが主宰する「折形デザイン研究所」が、2018毎日デザイン賞を受賞されました。グラフィックデザイナーとしての業績と、和紙で贈り物を包む日本の伝統的礼法「折形」の研究。一見、別の世界に属するように思える二つの活動が、ともに評価されての受賞です。

 毎日デザイン賞受賞記念と、折形デザイン研究所併設のギャラリー空間「gallery care of」の装いが新たになったお披露目を兼ねて、3月21日から31日まで「山口信博+折形デザイン研究所の一八年」と題する展覧会が開催されました。去る3月26日、さっそく友の会スタッフで会場にお邪魔しましたので、その様子をちょっとご報告いたします。


 折形デザイン研究所は、伝統的な「折形」をモダンデザインの観点から捉えなおし、現代の暮らしにとり入れることを目指して2001年に発足しました。以来18年近くの間、展覧会・ワークショップ・教室の開催、出版物、手漉き和紙職人とのコラボレーションによるオリジナル商品の開発などの活動を通して、折形の美と精神を世の中に伝えてきています。


   



 

東京・青山の住宅地に忽然と現れる古民家。その1階に折形デザイン研究所はあります。かつてここには川(人工の水路)が流れており、この場所には船着き場があったとか。それを彷彿させる坂道の地形に注目です。


 


 展覧会場の様子です。ふだんは折形の教室や句会などに使われる畳敷き一面に、これまでにデザインを手掛けられた書籍と、折形の研究に関する資料がぎっしりと並べられています。

 山口さんは、一枚の紙を折り束ねて作られる「本」をデザインすることと、一枚の和紙を折って物を包む「折形」の研究は、「二足の草鞋」ではなく、あたかも車の両輪が回るような活動であったことに、今回の受賞を通して気づかれたとおっしゃっています。


 


 折形研究の資料となる昔の貴重な「ひな型」や、折形デザイン研究所で開発されたオリジナル商品の数々が整然と展示されています。「紙幣包み」やギフト用パッケージなどのオリジナル商品は、伝統的な折形の発想をベースにしつつも現代の生活に合うよう工夫されたデザインが、モダンかつ凛とした印象をもたらします。


   


 会場には、川合優さん、赤木明登さんとそのお弟子さんたちとの交流から生まれた、木を素材とするプロダクトデザインも数々展示されていました。

 左の写真は、目下デザイン開発中の「応量器」(もともとは曹洞宗の僧侶が用いる塗り物の食器)。右はお遍路さんや僧侶が手に持つ錫杖(しゃくじょう)だそうです。でもよく見ると、ちょっと何かが……? けん玉やアンティークの布団たたきが載っているものがあるのがおわかりになるでしょうか?


 毎日デザイン賞は、山口さんと折形デザイン研究所が長年手掛けてこられた「紙と折り」を理由に受賞されたのですが、今回の展覧会では、意外にも「木」という別の素材をフィールドとするデザイン活動についても、たっぷりと拝見できました。

 じつは、山口さんは神道の神職の資格をお持ちです。つまり、デザイナーであり、神主さんでもあるのですが、ゆくゆくは仏教の僧侶にもなることで、「ひとり神仏習合」を実践していくのが夢だとおっしゃいます。こうした木製のプロダクトにも山口さんの精神世界が投影されているような気がして、深く考えさせられつつも、思わず笑いを誘ってくれる形の持つ明るい力に、楽しい時間を過ごさせていただきました。


 かつて、うつくしいくらしかた研究所でも、懐紙や包装紙など身近な紙を使って紙幣やコイン、調味料などのちょっとした物を包んで贈ることをテーマに、「包み方教室」という教材アプリを販売したことがありました(もちろん、山口さんと折形デザイン研究所に監修・ご指導をお願いして制作しました!)。

 それから8年ほど経とうとしておりますが、紙を折って物を包む行為、とりわけそれに和紙を使うことは、古来、紙の生産に恵まれた地でこそ生まれ、受け継がれてきた生活文化なのだな、という実感は、ますます強くなっています。

 くらしのこよみ友の会でも、ぜひまた、山口さんや折形デザイン研究所のみなさんのお力添えを得て、和紙を使うことでその生産が長く続くような活動ができたらなあと願いつつ、展覧会場を後にしました。