紫のひともとゆゑに武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る(『古今和歌集』読み人知らず)

紫という植物の産地というだけで、武蔵野の草は何でも趣のあるものに見えてしまう。



最も高貴な色彩として愛された紫は、ムラサキグサの根を用いて染められます。
そのムラサキグサの花が咲き始める季節となりました。
花そのものは紫色ではなく白、そしてどちらかというと地味な見た目。
とてもその根から深い紫が染めあがるとは想像できません。
根は、花の終わった秋ごろから栄養を蓄えはじめ、紫の色を更に濃くするとか。

平安時代、ムラサキグサの産地は都から遠く離れた武蔵野の地であったようで、平安時代には「むらさき」といえば「武蔵野」とすぐさま連想されるものでした。
今回の歌は、「紫の産地というだけなのに、武蔵野の草はなんでも特別なものに見えてしまう」というもの。
この歌をみると、どれだけ当時の人々がこの植物に憧れを抱いていたのかが伝わってくるようです。

この植物から紫の色合いを出すことが容易ではないということは吉岡幸雄先生のご出演なさった番組や著作の中でも度々指摘されていることで、紫が最も高貴な色とされた理由がよくわかります。

しかし、武蔵野を産地としたムラサキグサ資源は平安中期には枯渇してしまったともいわれています。
菅原孝標女の『更級日記』では、武蔵野を「むらさき生ふと聞く野も葦荻のみ高く生ひて」と描写しています。
これを以て資源の枯渇と結びつけることは短絡的ですが、ちょうど時期を同じくして貴族の位袍の当色(指定色)から紫がなくなり、黒にとってかわったことはムラサキ染料の入手の困難さが理由であったとも指摘されているようです。


かつては武蔵野に生い茂っていたムラサキグサ、現在では絶滅が危惧される植物に指定されてしまいました。
東京では、東大和市にある東京都立薬用植物園で見ることができます。

この植物園、貴重な植物が数多く栽培されており、また季節によってその種類も変わるためかなり楽しく観察することができます。
さらに、無料です!

残念ながら現在緊急事態宣言のため閉園中ですが、宣言が明けた折には是非また見に行ってみたいと思っております。

タイミングが合いましたら、ぜひお出かけください!