台風19号が東日本、東北一円に猛威を振るいました。なかでも千葉県は、前の15号からの復旧もめどがたたないうちの再打撃で、たいへん痛々しいことでした。

その千葉は房総半島の山あいの町・大多喜(おおたき)に、昨年、小さな蒸留所がひっそりと開かれたことを耳にしました。嵐の去った直後10月14日は、ちょうど月1回開かれる蒸留所オープンデーとのことで、見学に行ってまいりました。


鉄道ファンに人気のローカル線いすみ鉄道の駅もある大多喜は、江戸時代初期に活躍し「徳川四天王」と呼ばれた武将のひとり、本田忠勝が城を構えた城下町。「房総の小江戸」とも称される街並みは、あまり騒々しい観光地にはなりきっておらず、なかなか良い風情が残っています(台風直後で雨の日というのもあったかもしれませんが……)。


山上にそびえる大多喜城。昭和50年に復元されたものだそうです。


城に続く道から枝分かれした、夷隅川の渓谷沿いの山坂をずんずん登っていきます。


これは、お約束です(本田忠勝は、大河にはちょっと渋いか……?)。


すると、まったく見つけにくい場所に、「MITOSAYA」と、目指す蒸留所名が記された小さな看板が……。ちなみにこの名は、植物の「実と莢(さや)」の意とのこと。


足で山坂を登らず、駅前からタクシーで乗りつけた都会の方々。


ここは、もともと千葉県立の薬草園で、16,000㎡の敷地に500種もの薬用植物が育てられていましたが、2015年に閉園。

いっぽう、稀少なアートブックやデザインブックの販売などで知られるこだわり書店「Utrecht(ユトレヒト)」の代表だった江口宏志さんが、ドイツで蒸留酒づくりを学び、2016年に帰国します。江口さんは、日本の植物や果物を使い、風土に根差した蒸留酒づくりをするために最適な場所を全国に探し、ついに、この房総半島の奥地にある薬草園跡地という絶好のロケーションに出会います。江口さんが大多喜町からここをまるごと借り受け、建築物に改築を施すなどして、「mitosaya薬草園蒸留所」を創設したのが、2018年でした。

……といった解説は、MITOSAYAの公式サイト(https://mitosaya.com/)で詳しくお読みいただくとして、ここではオープンデーの様子を、写真とともにざっとお伝えします。



敷地内の様子。とにかく、植物、植物、植物……。


薬草園時代のなごりもたくさん残っています。


温室もしっかり残してあり、オープンデーには、MITOSAYA製の蒸留酒のテイスティング&販売会場や、バーテンダーがその場で作ってくれるオリジナルカクテルが飲める場所などに使われます。


私ももちろんテイスティング。お味のほうは、最高です……!(お値段も大いに結構です。)


そして、かつて資料展示室だったところが、いまはMITOSAYAの心臓部である蒸留施設に。


かつての展示物も、いまではすてきなインテリアに。


そして、ジャーン!という感じで現れる、ドイツ製蒸留器。30年ほど前のものだそうです。1回に、150リットル程度の原料液を使って、15リットル程度の蒸留酒ができるそうです。思ったより少ししか生産できないのです。


蒸留工程の前に、果物等を発酵させる部屋と、そのための大きな樽。
MITOSAYAで作られている蒸留酒は「オー・ド・ヴィー」と呼ばれるジャンルのもの。たとえば、ブドウの実を発酵させていったんワイン(に似た液体)をつくり、次にそれを蒸留してブランデーを作るのと同じで、発酵→蒸留の工程を経るそうです。


蒸留してできたお酒を、ガラスのボトルで寝かせるお部屋。


パッケージングなどもろもろの作業をするお部屋。

薬草園時代の建物を生かしていることもあり、全体的に、昔なつかしい学校の実験室みたいな、レトロな雰囲気にあふれています。

こんなMITOSAYAで過ごした数時間。行くのはちょっと大変でしたが、山に隠れ、人目からも隔絶されたこの環境が、少量で質の高い、おいしいお酒づくりの日々を支えていることを実感できる見学でした。
東京からのアクセスはじつに不便で、品川駅または浜松町・東京駅発の高速バスで1時間半ほど突っ走って大多喜駅周辺に着き、そこから薬草園までは20~30分くらい、舗装された坂道を登ります。鉄道好きは、外房線特急~いすみ鉄道ルートで半日がかりでトコトコいくのもよいでしょう。

うっかり写真を撮らなかったのですが、オープンデー当日は、自前のお弁当を持たない方のために、ケータリングのお弁当やスープランチの予約販売、ハーブやはちみつなどの販売も行われていました。あちこちで、い~い匂いが漂っておりました。

また、さすがに元薬草園なので、お酒は抜きにしても、あふれんばかりの植物に囲まれて、小刻みに変化する季節を目のあたりにできるのも、訪問の楽しみとなります。

いま、この秘密基地のような蒸留所と、くらしのこよみ友の会で、なにか一緒に活動ができたらなあと夢想しております。

最後に今回の戦利品。地元大多喜産のトマト+バジル+シナモンの蒸留酒です。