暦は大暑。文字通り、一年で最も暑く感じられる季節。
皆様、いかがお過ごしでしょうか?
毎日着物生活の木下着物研究所の木下勝博です。

今夏は世界中の多くの方にとって例外的な夏になっているのではないでしょうか。
特に今年の日本では梅雨が長き全国で大雨による被害に遭われている多くの方々がいらっしゃいます。この場を借りて心よりお見舞い申し上げます。


<自家栽培のきゅうり。自然のエネルギーを感じるカタチです>



日本人は古来から豊かな四季の恵みを頂きながら、同時に様々な自然災害と共に生きて来ました。大陸が自然と対峙して来た歴史だと捉えると、日本は自然との共存してきた歴史だと言われます。


毎日着物生活をして国内外どこに行くにも着物でいると、とても実感することがあります。本来、衣服はその地域や土地の気候風土があり、その延長線上で文化として形成されてきたものであるということです。

欧州であれば、国によっては乾燥していたり、冬場は日照時間が短いことで生まれた文化があります。石やレンガなどで作られた密閉性の高い住空間や、手首や首回りを閉じることで適度に体に湿度を保つためにシャツの構造があります。

洋服は今の季節であれば半袖やノースリーブですが、春秋はTシャツに革ジャンというようなファッションは、日があたると暖かく日が陰ると急に気温が下がる乾燥した地域こそのファッションだと言えます。

<近年増える傾向がある和のライフスタイルに関する雑誌やテレビ取材>

一方、着物は袖の丈が長く、基本的に夏も服も形は変わりません。
洋服のようにタイトではなく、平面の布を体にまといます。一見すると暑そうですが、袖口が広く、衿も裾も広く空いているため、空気の循環ができるようになっており、湿度を調整できる構造です。

夏の着物は麻素材(帷子:かたびら)や透けた素材で風通しの良いものを裏地を付けず(単衣:ひとえ)で着たり、一枚で着たりします(浴衣)。
着物も寒ければ、裏地をつけたり(袷:あわせ)、綿を入れたり、複数枚以上を重ね着して防寒します。平安時代の十二単は、特権階級の最高の防寒ファッションという見方もできるかも知れません。

着物と日本家屋の構造には共通性があります。夏場は襖や障子を外したり、簾や葦戸などに替え、風通しの良いものにします。冬場は障子や襖で空間を区切り、空気の多層構造を作ることで外気温と室温をグラデーションのように調整しています。
現代の密閉性が高く、エアコンなどの空調が稼働させることが前提となっている住環境とは考え方が全く異なります。


着物も日本家屋も湿潤な気候の日本列島において発展してきた産物です。それ以外にも湿度があることで乾く漆、カビを使った発酵食品(味噌、醤油、日本酒、焼酎、甘酒など)など、日本文化の独自性は日本の気候風土から切っても切り離せません。


<昨夏に約一ヶ月半に渡り代官山蔦屋書店様で開催させて頂いた「暈-ぼかし-日本の色と間の世界」>



さて、近年、毎日着物生活、和装生活をしている私共のところに様々なメディアの取材やイベントなどのご相談頂くことが増えています。

昨年も代官山の蔦屋書店様から真夏に何か企画展をされたいというご相談を頂き、「暈-ぼかし-日本の色と間の世界」を約1ヶ月半に渡り開催させて頂きました。


湿潤な日本の気候風土をビジュアル的に「暈(ぼかし)」として表現した展示でした。京都の熟練した染め職人さんに無理を言い、通常は染めない木綿や綿麻などの素材に美しい暈染めを表現して頂き、その生地を使い、浴衣や扇子、風呂敷、クラッチバッグなど様々な商品をこの企画展のために制作しました。


日頃、私共は着物を着る方向けの企画や商品開発をメインとしていますが、この企画に関しては代官山蔦屋書店様に来店される着物と馴染みが薄い方々や海外来日客を主な対象者としました。


そして、必要以上に文字や映像で説明しない中でどのような反応があるのか、暈の美しさから何が伝わるのか?その可能性を実験してみたいというのが、同企画の目的でもありました。お陰様で期待以上の反響と成果もあり、次年度以降へと期待感を持っていたところでした。


<Youtubeの動画配信や海外や地方の方向けのオンラインレッスンなども>

その後、新たな展開なども考えておりましたが、ご存知の通り2020年に入り、世情は一変しました。現在のご時勢を考えると今年以降しばらくは国内外でこのような企画の開催は難しいかも知れません。

ただ、一方で様々な方が生活の中にもっと日本文化や伝統的なものを取り入れたいというご要望は以前にまして増えているように思います。私どものようなものには大きな逆風だと思われた東日本大震災後にも同じようなことを感じました。


以前のようにリアルなイベントや機会が減っているからこそ、人はもっと知りたい、体験したいという想いが増して来ます。そのためにオンラインを通じた情報発信や知恵の共有は一層求められていると実感します。

これは国内だけではありません。毎日日本語で配信しているYoutubeの動画配信にもほぼ毎日海外の方がコメントや質問が入り始めたことからも、日本文化への関心度の高まりも感じます。



日本の近代化、そして、戦後大きく日本人のライフスタイルは変わってきました。そんな中でも古から自然にその豊かさへの感謝と畏敬の念を頂きながら共存してきた日本人が育んできた文化は、私たちの無意識下に継承されています。


今年を境に世界において起こるであろうパラダイムシフトの中で、先人たちの智恵が改めて見直されるそんなタイミングに来ていると感じている方は少なくないのではないでしょうか?


日本の伝統的な衣食住。現代においても決して無理ない身近なところから、生活に取り入れて頂ければと願うばかりです。