八時半を回っているのにまだLEDの街路灯は点灯している。今日の日の出はいったい何時なのだと見てみると、この地域は六時四十七分とあった。


 思い切り雨が降って来るならいざ知らず、ぱらつく雨の癖にこの分厚い雲は一向に切れ目がないではないか、さてはいよいよ冬将軍が陣を敷いたのか……

 八時四十八分と車の時計が知らせるが、国道の交差点の街路灯でさえもまだ点灯している。光電式自動点滅器のはずだから、おおむね消灯するのは明るさが300lx程度になってからだろう。だから屋外の照度が日の出入り時刻と何ら変化がないと言うことではないか。


 ちなみに、晴天午後三時の百分の一、普通の事務所の半分くらいの明るさしかないと言うことになる。どうりでと、隣のコンビニを見てもまだ外の照明が点灯したままだ。

 いっそのこと、雪でも早く降ってくれれば明るくなる。車のライトを雪が反射してくれるほうがまだいいと、憂鬱な気分が一層重くなる。


 しかし、今年の夏に日本で今日は一番暑い場所だといっていた。そういえば四十一度を記録したようだったなと思い出してその記録写真を見た。

 確かに、車の温度計は二時四十七分に四十一度を現してる。懐かしくはないが、何か月も過ぎないうちにあっけなく過去の記憶を折りたたんでしまっている自分が前向きなのだろうか、いや今を生きるのに精いっぱいなのだと、自問自答してしまっていることに気が付いて可笑しさがこみ上げる。


 この季節、こういう空を見るたびに襲ってくる憂鬱の邪気を払わなければ生気が戻ってこない。

 そうだ! こういう時のために仕込んでおいた菊酒にあやかろう。もうできているはずだから。

 冷蔵庫から出した黄色の菊酒はずいぶん色が出ていて香りもいい。甲類焼酎は癖がないから引き立つ菊の香りだ。

 そうだ、浮かべる菊が無いと悪いからと言って、新聞紙に包んでフリーズさせておいた菊の花があった。出してみると、色も鮮やかではないか。


 そっと浮かべて、ぐいと飲む。おぉ! 長寿の薬とはよく言ったものだ。菊の香りも菊の花の味もいいじゃないか。

 三十五度の純は自分を媒体にして液体に漂う主役のエキスを引き立ててなお、弛緩させ陶酔させる本来の得意技を決めてくれる。ストレートでいいじゃないか、そのままの自分でいいさ、ピュアな心で居ろよと言われた気がした。


 そうだよ、明日からあの空を見ても、ちゃんと今年も冬将軍を連れてきたのかと、その雲に礼でも言えばいいさと、菊酒が話しかけてくれた今日の終わりだった。


  おしまい